この3/16に国立環境研究所が、約15年前以降に登場し従来の農薬より毒性が低く人・魚・ミジンコなどに悪影響はないとされてきた期待の新タイプ稲作農薬・3種類について、トンボへの影響を調べた次の結果を発表。
1)(批判が出ていた)ネオニコ系(ネオニコチノイド系)などより、フェニールピラゾール系農薬(フィプロニル)で、トンボの幼虫(ヤゴ)の生息数の大幅減少などの影響が出た。
2)これらの農薬の水中濃度は徐々に低下、しかし一方、水底の土中濃度はほぼ横ばい。
※ 新タイプ農薬=浸透移行性殺虫剤=根や葉から吸収され植物を食べた虫が駆除される。
実験の内容は、次のとおり。
・ミニ水田8面(4m×1.7m)を設置、1区2面ずつとして下記の4区で実験を実施。
・稲の苗に粒状の農薬をかけ、翌日に田植え、秋まで約5か月間栽培。
① 無農薬区(比較用区)
② クロチアニジン粒剤区(ネオニコ系農薬)
③ フィプロニル粒剤区(フェニールピラゾール系農薬)
④ クロラントラニリプロール粒剤区(ジアミド系農薬)
(②~④は、いずれも新タイプ農薬)
実験結果では、「フィプロニル粒剤区」でトンボの幼虫の数が大幅に少なくなることが判明。
シオカラトンボでは数が少なく産卵状況の差なども考えられ結果は必ずしも明瞭といえないのですが、一方、200匹近くと数が多かったショウジョウトンボではハッキリした結果になってます。
またミニ水田での実験中の農薬濃度の変化は、水中濃度は減少(下図の折れ線グラフ)、他方、土中濃度はしばらく上昇した後に横ばい又は緩やかな下降(下図の棒グラフ)。
このように土中濃度の高い状態が続くことは、水底で暮らすトンボの幼虫への影響を推測させます。
以上の実験結果を受け、国立環境研の発表文は冒頭で「(国に認められた農薬でも)、一部の野生生物に予期せぬ影響をもたらす可能性がある・・」と明確に指摘。
今まで散発的な批判や指摘があったものの評価が曖昧(あいまい)だった新タイプ稲作農薬に対し、①一部の野生生物への影響の可能性や ②農薬審査基準が十分でなかったことについて、国の研究機関が公式に認めた意味は大きいでしょう。
★ 水底で幼虫時代を過ごす ヘイケボタル激減の解明にもヒント
今回の国立環境研発表では対象になってませんが、箕面の田んぼでこれらの農薬が使われ始めたとみられる約15年前まで多数見られたヘイケボタルが、その後、全く姿を消し(帝釈寺裏の箕川(みのかわ)に少し残存)、その原因は長らくグレー(不明)でしたが、近年は新タイプ稲作農薬との関係が疑われ出してました。
今回の発表は、トンボと同じく田んぼなどの水底で幼虫時代をすごすヘイケボタル激減問題の解明にも大きな“手がかり(ヒント)”を与えるといえるでしょう。
【コメント】国立環境研発表~問題解決への議論を大きく進める~
新タイプ農薬はミジンコなどへの影響テストなどもクリアし、従来の農薬の弊害を大きく乗りこえたものと期待されてました。しかし、ミツバチや赤トンボ(アキアカネ)などに影響があるとの指摘が出て、長年、モヤモヤ状態が続いていました。
今回の国立環境研の発表は、新タイプ農薬のうち稲作向けに限ってですが、野生動物への影響についてとりあえずの答えを出したものといえるでしょう。
しかも、次の点で問題解決への科学的な議論を大きく進めるとして注目されます。
① 新タイプ農薬の中でも種類により影響の程度に差があることを示した。
② ミジンコには影響しないのになぜトンボの幼虫に影響するのかに対し、影響を受けるのは水底で暮らすなどの一部の動物であることを示唆。
③ 従来の農薬の「審査基準」が、万全でなかったことに触れている。
今回の発表により、悪影響があるかどうかの《そもそも論》には「ある」ということでほぼ決着がつき、今後の議論は「どの農薬がどの生物に悪影響するか」「土中での残留、又は蓄積はどの程度か」など《具体論》へ進むとみられます。
《参考:電子版の詳細情報》
同上の「朝日」記事
↓
http://www.asahi.com/articles/ASJ3H7G1DJ3HUJHB012.html
国立環境研の発表文
↓
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20160316/20160316_2.html
(NPO花とみどり事務局)
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